☆六つの誓願で、菩薩となる

 
 
“坐禅と般若心経の集い”法話 vol.4

「波羅蜜多」

―― サンスクリット語のパーラミターの音訳で「到彼岸」とか「度」と訳します。悟りに到る六つの徳目で、六波羅蜜という菩薩の実践徳目をいいます。
最近では言語学的に完成と訳すようでもありますが、中国、日本では〈悟りに到る行〉と捉えてきました。チベット仏教においても〈彼岸に到る〉という解釈のようです ――

 
現代は女性の時代といっても過言ではないほど、女性が活躍されて才能のある方はグングンと伸びていく。望む道が開かれる時代になったように思います。
当庵のような小さい坐禅会に於いても、来られるお方はほとんどが女性の方です。

その昔、橘嘉智子(たちばな-の-かちこ)というお方がおいでになりました。嵯峨天皇の皇后で絶世の美女であったといわれています。承和年間(834―848)に檀林寺を嵯峨野に創建されたので檀林皇后とも呼ばれます。
帰朝した空海(弘法大師)から、悟りを開けば直ちに仏になれる仏法があると聞き、中国から招いた安国義空禅師を開山として檀林寺を創建され、禅師を師として修行を始めます。投機(とうき)の偈というのですが、皇后の悟りの歌が残っています。

「もろこし(唐土)の 山の彼方に 立つ雲は 此処に焚く火の 煙なるらん」 『禅林世語集』

―― 皇后の境界は時空を越えて対立がなくなったともいえましょう。
この後、檀林寺は廃絶しましたが、この寺は日本最古の禅寺であり尼寺でした。

 
さて檀林皇后も実践された六波羅蜜ですが、彼岸に到る実践徳目として、布施(完全な恵み、施し)、持戒(戒律を守り、自己反省する)、忍辱(完全な忍耐)、精進(努力の実践)、禅定(心作用の完全な統一)、智慧(真実の智慧)の六つが説かれます。 『百科事典・マイペディア 六波羅蜜』

六つの項目すべてではなく、起こした一つの誓願で他人様も一緒に彼岸に渡すという誓いですが、残念ながら布施波羅蜜の徳目に誤解が多いように思います。

 
先進国の第一とされるアメリカでは慈善団体に多額の私財を寄付する方が多く、社会に還元できる立場や地位が成功とか人格者と考えられているように思えます。
そのアメリカで先年サブプライム住宅ローン危機に、教会が呼びかけたフレーズをTVのニュースで記憶しています。
「給料の八割で生活をしましょう、一割は貯金をして、残りの一割は教会に浄財として寄付しましょう……」 ―― ここで価値判断を云々したわけではありません。二十一世紀の、アメリカのある情景の断片でした。
布施波羅蜜も含めて、波羅蜜多の実践は〈執着)を離れるということが肝心なところであります。

その他、六波羅蜜の各徳目の詳細はその都度取りあげたいと思います。

vol.5へ続く

by 般若心経のお話し2012/8/30(木) ブログ掲載